文学(9類)―日本

小さな異邦人 井塚章文の本棚

小さな異邦人

連城三紀彦の遺作集ということになるのだろうか。それにしてもなぜ今まで刊行されなかったのだろう。決して質が悪いわけではない。むしろ一級品といっていい短篇集である。収録作品は『オール讀物』に2000~2009年に掲載された7篇。甲乙つけがたい作品ばかりだ。確かに他の作家とは違った雰囲気があるので支持を受…
天皇の代理人 井塚章文の本棚

天皇の代理人

なんか昔の小説を読んでいるようだった。時代設定の話ではない。第二次世界大戦が舞台の諜報活動というのはよっぽどリアルに描くかいっそとんでもな話でないと今時流行らないのでは。そもそも「外交秘史」といのは難しい。どこまで事実か普通はあたりまえだが知られていない。だからリアルかどうか評価のしようがないのだ。…
戯作・誕生殺人事件 井塚章文の本棚

戯作・誕生殺人事件

いい意味でも悪い意味でも超ベテランにしか書けない作品。とは言え文章だけ見れば一見若い。勿論、この文章を老練なそれと表現することも可能。矛盾だらけの作品と合っている。ここでも前言を補足すると別に推理小説として矛盾があってダメな作品という意味ではない。そうではなくお約束的な部分とそうきたかという挑戦的な…
夜の国のクーパー 井塚章文の本棚

夜の国のクーパー

伊坂幸太郎は不思議な作家だと思っていた。何がいいのかよくわからないのだが妙に魅力的なのだ。その謎がやっとわかった気がする。「あとがき」を読んで驚いた。大江健三郎のファンだったようだ。そういえば文体が・・・。不可能と思われる設定をしながら説得力がある。力技だ。大江作品の妙に違和感があるのに面白い、あの…
流星ひとつ 井塚章文の本棚

流星ひとつ

藤圭子のアルバムを聞きながら書いている。本書は沢木耕太郎が藤圭子に「インタヴュー」(というタイトルで出版するつもりでいた)した、すべて会話という作品。これが凄い。こんなこと答えていいのかというほどの内容。沢木耕太郎は初期の作品ぐらいしか読んでいなかったが「一瞬の夏」を思い出してしまったが実はこの2作…
ヨハネスブルグの天使たち 井塚章文の本棚

ヨハネスブルグの天使たち

読み終えて思ったのはJ・G・バラードと似ているだった。落下を続ける日本製のホビーロボット・DX9が登場する連作集。話は別々だが雰囲気は共通している。国家・民族・宗教・戦争・言語の意味を問い直すという今の時代とこの雰囲気が合っている。しかし直木賞候補作ということだがこの表現しようのない雰囲気で直木賞は…
日本を捨てた男たち 井塚章文の本棚

日本を捨てた男たち

第9回(2011年)開高健ノンフィクション賞受賞作。フィリピーナのために移住した男たちは貧困生活をおくっていた。しかし大使館は援助しない。彼らを援助しているのはフィリピンの貧しい人たちだった。著者はそれをクリスチャンの隣人愛によるものとしている。私は貧しいほど助けあいの気持ちが生まれるせいだと思うが…
平成猿蟹合戦図 井塚章文の本棚

平成猿蟹合戦図

「悪人」に続いての吉田修一作品。読み始めときは「悪人」と同じような作品かと思ったらだいぶ違っていた。ハードボイルドとユーモア小説という全く違うイメージのジャンルに属する作品だったようだ。しかし人物描写が丁寧な割にストーリーはかなり無理がある。これでストーリーも緻密なものになっていたら丸谷才一作品に匹…
東京プリズン 井塚章文の本棚

東京プリズン

またお気に入りの女流作家が増えた。篠田節子、津島佑子に続いて。皆、一人の人間と世界を同時に描ける才能がある。男性作家だと世界か個人かどちらかしか描けていない気がする。高校生がアメリカ留学で味わった違和感の話なのだがそれが戦後史に無理なく繋がっている。天皇に戦争責任はあるかないかを巡るディベートという…
綾辻行人『AnotherエピソードS』 中島駆の本棚

綾辻行人『AnotherエピソードS』

綾辻行人のホラー作品はあまり好みでないのだけど、前作『Another』は面白かった。この「エピソードS」は、その前作の事件の最中に起きたもう一つの事件。外伝と思いきや、続編といって差し支えない。このシリーズの特徴は、スプラッタのような幻想譚のような語り口でありながらも、ミステリの結構をきちんと保って…
朝井リョウ『世界地図の下書き』・羽海野チカ『3月のライオン』 中島駆の本棚

朝井リョウ『世界地図の下書き』・羽海野チカ『3月のライオン』

先週紹介したシエラレオネの少女の悲劇のように、たいていの子どもの不幸は大人のエゴに端を発する。もちろんその不幸は、遠いアフリカの国の少女ばかりに訪れるわけではない。僕たちの身近にもたくさん溢れているけれども、見て見ぬふりをしているだけだ。ウチはウチのことで手いっぱい。よその子どものことなど気にかけて…
東野圭吾『祈りの幕が下りる時』 中島駆の本棚

東野圭吾『祈りの幕が下りる時』

発売日に購入したが帯文には、誰が主人公か書かれていない。出版社サイトにも〈東野圭吾、全身全霊の挑戦〉とだけある。だがこれは『赤い指』『新参者』『麒麟の翼』に続く加賀恭一郎シリーズだった(発売日に書店店頭でも告知されていたから、ネタバレにはならないだろう)。加賀の登場は、東野のデビュー二作目となる『卒…
中町信『模倣の殺意』 中島駆の本棚

中町信『模倣の殺意』

ある日、近所の書店に足を運ぶと見慣れぬ作家の文庫本が平積みされていた。作家の名前は「中町信」。丁寧にポップも添えられていて、『模倣の殺意』というその文庫本は、今、全国の書店でベストセラーとなっているとある。僕はミステリには疎いので、そのときは買わずに店を出たのだが、その別の日、別の書店(同じような郊…
島田雅彦『島田雅彦芥川賞落選作全集』 中島駆の本棚

島田雅彦『島田雅彦芥川賞落選作全集』

島田雅彦が『優しいサヨクのための嬉遊曲』でデビューしたのは1983年のことで、僕が高校に入学した年となる。高校を卒業する頃には何作か文庫化されていて、僕はそれを読んだ。金子國義の耽美的な装画が印象的で、レーベルは今は亡き福武文庫である。現在はベネッセと改名してしまったが、当時の福武書店は「海燕」とい…
綿矢りさ『大地のゲーム』 中島駆の本棚

綿矢りさ『大地のゲーム』

震災という未曽有の災害を前にすれば、作家は自らの持てる力をフル稼働させるかしない。畢竟、できあがった作品はその作家の個性を色濃く反映したものとなる。人間と自然との関係性を長くテーマにしてきた池澤夏樹は、一隻の船を用意して海上を舞台とした『双頭の船』に挑んだ。ラッパーであるいとうせいこうは、彼岸の国の…