文学(9類)―海外

レッドスーツ 井塚章文の本棚

レッドスーツ

いやあ、面白かった。いままでも小説の登場人物が作者に逆らうという設定はあったかと思うがこの話はテレビドラマの世界が実在したらどうなるかというアイデアで始まる。日本人SF作家が書きそうだと思った。でそのテレビドラマがスター・トレックのようなスペースオペラものなのだ。結果、毎週宇宙船のクルーたちから犠牲…
もうひとつの街 井塚章文の本棚

もうひとつの街

まるで宮﨑駿作品のような小説。街の中に別の世界が同時にあり行き来できる。同じような設定でも「都市と都市」はどちらもリアルな存在で住民は互いの存在を無視しながら生活しているという東と西のベルリンが市松模様のようになっている都市の話だったがプラハが舞台のこちらは次元が違うというか「もうひとつ」の世界は最…
サン=テグジュペリ『星の王子さま』 中島駆の本棚

サン=テグジュペリ『星の王子さま』

月一回、哲学教室に通っている。「教室」といっても、有志による集いだから堅苦しいものではない。大学で哲学を教えていらっしゃる先生をお招きして、個人宅で行う。いってみれば、サロンのようなもの。始まりはNHKの白熱教室が流行ったあたりで、マイケル・サンデルの『これからの「正義」の話をしよう』の熟読を目的と…
アンドリュー・カウフマン『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』 中島駆の本棚

アンドリュー・カウフマン『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』

ある日、銀行に紫色の帽子をかぶった強盗が現れる。強盗といっても、彼の要求はお金ではない。「あなたがたにはそれぞれひとつ、なにかを差し出していただきたい。今お持ちのものの中で、もっとも思い入れのあるものを」――こうして居合わせた客たちは、それぞれ“思い入れのある品物”を強盗に差し出す。ある者は、母親か…
ワイルド『サロメ』 中島駆の本棚

ワイルド『サロメ』

先日紹介した谷崎潤一郎は〈儒教の精神から最も遠い作家〉だと、呉智英氏は『現代人の論語』のなかで書いている。それゆえに〈最も遠い者の直感は最も近い者に意外と合致しているような気がする〉という。その“最も遠い者”として、もうひとり呉氏が挙げている作家がいる。オスカー・ワイルドだ。 『ドリアン・グレイの肖…
村上春樹編訳『恋しくて』 中島駆の本棚

村上春樹編訳『恋しくて』

村上春樹編訳『恋しくて』は、海外の現役作家作品から「ラブ・ストーリー」を9篇、そして村上自身の書き下ろし短編「恋するザムザ」を収録したアンソロジー。恋というのは、100組のカップルがいれば100通りの物語がある。ひとつとして同じ物語はないはずだから、他人の恋物語に共感することはないように思えるけれど…
残雪『かつて描かれたことのない境地』 中島駆の本棚

残雪『かつて描かれたことのない境地』

中国の現代作家・残雪の短編集『かつて描かれたことのない境地』が出た。僕が残雪の名前を初めて目にしたのは、池澤夏樹編集による「世界文学全集」に彼女の作品が収録されると知ったときのことだ。しかし「残雪」という奇妙なペンネームはもちろんのこと、世界文学全集のラインナップに彼女の名前が載っていることに、僕は…
フェルディナント・フォン・シーラッハ『コリーニ事件』 中島駆の本棚

フェルディナント・フォン・シーラッハ『コリーニ事件』

1964年ドイツ、ミュンヘンにひとりの男の子が生まれた。曽祖父が建てたシュトゥットガルトの屋敷には広大な庭園があったというから、それなりに裕福な家柄だったのだろう。父親は、よく彼を釣りや狩猟に連れて行ってくれた。その屋敷には祖父もいた。祖父は杖のコレクターで、酒瓶や時計、あるいは剣を忍ばせたさまざま…
銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件 井塚章文の本棚

銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件

面白かった。タイトルから最後まで軽妙なファンタジックな作品。はっきり言って日本のお笑いでたまにあるシュールなコント。一気に読めてしまう。買うにはあっけないが借りて読む分には最高の出来。身長が毎日少しずつ縮んでいる!? 自分の心臓が爆弾になった!? 母親が97人に分裂!? 夫が雪だるまに変身!? 銀行…
トリステッサ 井塚章文の本棚

トリステッサ

「オン・ザ・ロード」のジャック・ケルアック作品。メキシコで出会ったモルヒネ中毒の美人の話。タイトルはその美人の名前なのだが訳すと「悲しみ」だそうだ。チャールズ・ブコウスキー「町でいちばんの美女」に似て美しも悲しい物語。刊行は1960年である。リアルタイムで見た「イージーライダー」(1969)もメキシ…
二流小説家 井塚章文の本棚

二流小説家

映画化されたが原作本に当たる本書を読んだのは1年以上前。そのときの感想は・・・。一瞬都筑道夫を連想したが要するに半世紀前の小説のように思えたのだった。なぜアメリカの大衆小説はこうもグロいのだろう。アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞候補作とのことだが結果はどうなったのだろう。設定はとても面白いのに残…
黒と白 井塚章文の本棚

黒と白

ムーミンの作家トーベ・ヤンソンの短篇小説集。画家でもある作者の短篇はどことなく絵画を思わせる。それもムンクの作品を。ムンクとムーミンを連想する人はあまりいないだろうが北欧の憂鬱は日本人から見れば近いものを感じる。同じ文庫の前作「トーベ・ヤンソン短篇集」は明るく楽しい作品を編んだものらしくこちらはいわ…
神は死んだ 井塚章文の本棚

神は死んだ

短篇集とも連作集とも言えないが、まあ処女短篇集としておこう。いきなり最初の作品で神の死が宣言されてしまう。以降「神を失った世界に生きる人々の姿が描かれていく」連作と「訳者あとがき」にある。宗教小説なのか無神論小説なのか。アメリカ人らしい悩みである。「ポストモダン人類学軍」対「進化心理学軍」の戦闘とい…
地図集 井塚章文の本棚

地図集

場所と時間にこれほど敏感な作品もめずらしい。マイナー文学というものがある。メジャー文学とは英米仏独あたりだろう。イタリア現代文学はややマイナーだ。カルヴィーノという作家がいる。南米文学という不思議な括りがある。ボルヘスらが属する。今名前を上げた二人の作家は自分の文学にいわば周辺かつ中心という意識を持…
湿地 井塚章文の本棚

湿地

サスペンスとしてのレベルは普通だと思う。内容は異なるが朝の連続ドラマのような45章のそれぞれの過不足ない長さはここちよい。あまりここちよい内容ではないのだが。刑事物である。そしてなによりの特徴は舞台がアイスランドであることだ。作者がアイスランドの作家なのだから当然なのだが。狭く寒く湿っている。タイト…