月別: 2013年12月

炭素文明論 井塚章文の本棚

炭素文明論

タイトルはよくある未来は明るいという怪しげな本のようだが内容は有機化合物が世界史上、重要な役割を果たしてきたというもの。「銃・病原菌・鉄」を連想した 。面白かった。しかし化学式というのはさっぱりわからない。なぜ原子の数が異なると別の分子となり別の性格になってしまうのかからして文化系の人間にはなかなか…
世界が認めたニッポンの居眠り 井塚章文の本棚

世界が認めたニッポンの居眠り

タイトルと内容が合わない。日本人の特殊性(大人がマンガを読むとか)についての本を外国人が持ち上げた本だと思って読むと大間違い。世界の睡眠文化史とでも云おうか。それもかなり自然科学(この場合は医学)的な書き方で著者がオーストリア人つまりドイツ語圏の人だとこういう書き方になってしまうのかと驚いた。フラン…
東京プリズン 井塚章文の本棚

東京プリズン

またお気に入りの女流作家が増えた。篠田節子、津島佑子に続いて。皆、一人の人間と世界を同時に描ける才能がある。男性作家だと世界か個人かどちらかしか描けていない気がする。高校生がアメリカ留学で味わった違和感の話なのだがそれが戦後史に無理なく繋がっている。天皇に戦争責任はあるかないかを巡るディベートという…
綾辻行人『AnotherエピソードS』 中島駆の本棚

綾辻行人『AnotherエピソードS』

綾辻行人のホラー作品はあまり好みでないのだけど、前作『Another』は面白かった。この「エピソードS」は、その前作の事件の最中に起きたもう一つの事件。外伝と思いきや、続編といって差し支えない。このシリーズの特徴は、スプラッタのような幻想譚のような語り口でありながらも、ミステリの結構をきちんと保って…
朝井リョウ『世界地図の下書き』・羽海野チカ『3月のライオン』 中島駆の本棚

朝井リョウ『世界地図の下書き』・羽海野チカ『3月のライオン』

先週紹介したシエラレオネの少女の悲劇のように、たいていの子どもの不幸は大人のエゴに端を発する。もちろんその不幸は、遠いアフリカの国の少女ばかりに訪れるわけではない。僕たちの身近にもたくさん溢れているけれども、見て見ぬふりをしているだけだ。ウチはウチのことで手いっぱい。よその子どものことなど気にかけて…
東野圭吾『祈りの幕が下りる時』 中島駆の本棚

東野圭吾『祈りの幕が下りる時』

発売日に購入したが帯文には、誰が主人公か書かれていない。出版社サイトにも〈東野圭吾、全身全霊の挑戦〉とだけある。だがこれは『赤い指』『新参者』『麒麟の翼』に続く加賀恭一郎シリーズだった(発売日に書店店頭でも告知されていたから、ネタバレにはならないだろう)。加賀の登場は、東野のデビュー二作目となる『卒…
サン=テグジュペリ『星の王子さま』 中島駆の本棚

サン=テグジュペリ『星の王子さま』

月一回、哲学教室に通っている。「教室」といっても、有志による集いだから堅苦しいものではない。大学で哲学を教えていらっしゃる先生をお招きして、個人宅で行う。いってみれば、サロンのようなもの。始まりはNHKの白熱教室が流行ったあたりで、マイケル・サンデルの『これからの「正義」の話をしよう』の熟読を目的と…
アンドリュー・カウフマン『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』 中島駆の本棚

アンドリュー・カウフマン『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』

ある日、銀行に紫色の帽子をかぶった強盗が現れる。強盗といっても、彼の要求はお金ではない。「あなたがたにはそれぞれひとつ、なにかを差し出していただきたい。今お持ちのものの中で、もっとも思い入れのあるものを」――こうして居合わせた客たちは、それぞれ“思い入れのある品物”を強盗に差し出す。ある者は、母親か…
中町信『模倣の殺意』 中島駆の本棚

中町信『模倣の殺意』

ある日、近所の書店に足を運ぶと見慣れぬ作家の文庫本が平積みされていた。作家の名前は「中町信」。丁寧にポップも添えられていて、『模倣の殺意』というその文庫本は、今、全国の書店でベストセラーとなっているとある。僕はミステリには疎いので、そのときは買わずに店を出たのだが、その別の日、別の書店(同じような郊…
マリアトゥ・カマラ/スーザン・マクリーランド『両手を奪われても』 中島駆の本棚

マリアトゥ・カマラ/スーザン・マクリーランド『両手を奪われても』

アフリカ大陸の西海岸にシエラレオネという小国がある。農村部での平均賃金は一日一ドル、平均寿命はわずかに四十歳という最貧国のひとつだ。これほどまでに国が荒れたのは、1991年から2002年という長きに渡って激しい内乱が続いたからだ。とりわけ犠牲となったのは女性と子どもで、この本の著者であるマリアトゥ・…
シェリル・サンドバーグ『LEAN IN(リーン・イン)』 中島駆の本棚

シェリル・サンドバーグ『LEAN IN(リーン・イン)』

「子育てとは親の命を削って行うもの」というのが僕の持論である。もちろん、もとからそんな過激なことを考えていたわけではない。こんな考えが頭に浮かんだのは、たしか子どもが1歳ぐらいのとき。寝不足の頭でぼんやりとテレビを観ていたときのことだ。そこには鮭の産卵の様子が映し出された。産卵のために川を遡上してい…
池澤夏樹『ぼくたちが聖書について知りたかったこと』 中島駆の本棚

池澤夏樹『ぼくたちが聖書について知りたかったこと』

僕は特定の宗教を信じるものではない。それでも「論語」や「聖書」に惹かれるのは、それらが強烈な物語性を含むからだ。いや、それらは物語そのものといっていい。「論語」は孔子のルサンチマンの現れであると以前に書いたが、聖書の場合も同様で、旧約はユダヤ人の苦難の歴史であるし、新約はイエスの受難の物語である。い…
島田雅彦『島田雅彦芥川賞落選作全集』 中島駆の本棚

島田雅彦『島田雅彦芥川賞落選作全集』

島田雅彦が『優しいサヨクのための嬉遊曲』でデビューしたのは1983年のことで、僕が高校に入学した年となる。高校を卒業する頃には何作か文庫化されていて、僕はそれを読んだ。金子國義の耽美的な装画が印象的で、レーベルは今は亡き福武文庫である。現在はベネッセと改名してしまったが、当時の福武書店は「海燕」とい…
綿矢りさ『大地のゲーム』 中島駆の本棚

綿矢りさ『大地のゲーム』

震災という未曽有の災害を前にすれば、作家は自らの持てる力をフル稼働させるかしない。畢竟、できあがった作品はその作家の個性を色濃く反映したものとなる。人間と自然との関係性を長くテーマにしてきた池澤夏樹は、一隻の船を用意して海上を舞台とした『双頭の船』に挑んだ。ラッパーであるいとうせいこうは、彼岸の国の…
ワイルド『サロメ』 中島駆の本棚

ワイルド『サロメ』

先日紹介した谷崎潤一郎は〈儒教の精神から最も遠い作家〉だと、呉智英氏は『現代人の論語』のなかで書いている。それゆえに〈最も遠い者の直感は最も近い者に意外と合致しているような気がする〉という。その“最も遠い者”として、もうひとり呉氏が挙げている作家がいる。オスカー・ワイルドだ。 『ドリアン・グレイの肖…