すべての好奇心をレビューする――「ホンスミ!」

読んでいない本について堂々と語る方法

今年のベストワンだと思ったら昨年11月刊行だった。急に熱がさめてしまったが考えてみれば「読むな」と言っている本を熱心に勧めるのは著者の意図に反する行為だからそれでいいのだろう。かようにパラドックスに満ちた本なのである。私は最後まで実は読書の勧めの本だと思いながら読んだ。しかしそうでもないらしい。要は本なぞ読まずに(影響を受けずに)自己に忠実な生き方が望ましいというのがこの精神分析家である著者の意図らしいのだ。だがそういう著者の読書量は絶対半端じゃない。なにしろ読まずに語る事例として挙げられた本が凄いのだ。ムージルの「特性のない男」ウンベルト・エーコの「薔薇の名前」モンテーニュの「エセー」グレアム・グリーンの「第三の男」バルザックの「幻滅」夏目漱石の「吾輩は猫である」「草枕」。ちなみに私はどれも読んでいない。他にもポール・ヴァレリーやオスカー・ワイルドも読まずに批評する作家として取り上げている。要するにあまりに読書してしまった結果の結論が本など読まない方がいいということなのではないだろうか。私はそこまで読んでいないしこの先死ぬまで読んでも不十分だろうからいいとしよう。そもそもそんなに自己なるものが確立していないししていないことに不満はないのだった。