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海街diary


鎌倉で暮らす三姉妹が、ふとしたきっかけで、腹違いの妹と暮らすことになる。姉妹の父は15年前に、別の女と家を出た。しばらくして母親も別の男と再婚。あっけなく鎌倉の家を出て行き、それ以来、姉妹は祖母の手で育てられる。長じて姉は看護師になり、次女は地元の信用金庫に就職し、三女はスポーツ量販店に勤め、それぞれに(同居してはいるものの)自立した生活を送っている。

一方、家を出た父は、女との間に一子をもうけたが、やがて彼女とは死別。娘を連れて山形に移り、そこでまた再婚するものの、がんを患い死んでしまう。その訃報が三姉妹のところに届く。ここからが第一話。夜勤で出席できない長姉のかわりに、次女と三女が山形に向う。そこで初めて異母妹に出会う。父の連れ子である彼女には、山形に留まる理由がない。遅れて葬儀にやって来た長女は、別れる間際、彼女に向って「鎌倉に来ないか」と誘う。自分の家庭を壊した女の子供であるにもかかわらず。なんの衒いもなく。それに対して二つ返事で肯く彼女。そうして、鎌倉を舞台とした四姉妹の物語が始まる。

四姉妹の物語ではあるけれど、この作品は1995年に刊行された「ラヴァーズ・キス」のアナザーストーリーでもある。「ラヴァーズ・キス」の主人公、藤井朋章は次女の彼氏として再登場するし、朋章の同級生である尾崎美樹の家族や、緒方篤志の弟も登場する(時系列で並べれば「海街」のほうが、やや昔の話ということになる)。「ラヴァーズ・キス」では重苦しい過去から逃れる姿が強く印象に残る朋章だが、「海街」では明るい表情が多い(ときにコミカルなシーンもある)。暗く陰鬱な表情が目立った朋章が、四姉妹の前では明るい顔を見せる。どちらも同じ人物だが、見る側によってその印象は変わる。それを描きながら、吉田秋生は彼らに少しずつ命を吹き込んでいる。

蛇足ながら付け加えておくと、「ラヴァーズ・キス」は藤井朋章という人物を、複数の登場人物の目を通じて語る連作短編集である。これは例えば、フォークナーの「アブサロム、アブサロム!」の手法によく似ている。「人物再登場」ということに関していえば、これまたフォークナーのヨクナパトーファ群を舞台とした一連の作品群が浮かぶ。あるいはバルザックの「人間喜劇」など。「BANANA FISH」「YASHA」「イヴの眠り」と続くハードロマンもいいが、「ラヴァーズ・キス」「海街diary」のほうが僕は好きだ。後者には、文学の香りがする。