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星新一『つぎはぎプラネット』

星新一の新刊が出た。新刊といっても星は1997年に物故してるので、もちろんこの本は“新作”ではない。ではなにかというと、これまで書籍未収録だった彼の作品を発掘し、一冊にまとめたものだ。いかにも星新一的なショートショートが並んでいるわけではない(もちろん、そうした趣きの作品もある)。でも、ほとんどは新聞・雑誌、あるいは企業のPR誌などに書いた単発の小文。なかには小学生向けの科学読み物といったものもあり、全体的な統一感には欠ける。だから「つぎはぎ」。いいタイトルだと思う。

僕が初めて星の作品を読んだのは、小学生の頃。教科書に載っていた作品だった。タイトルは「花とひみつ」。女の子の落書きが風に飛ばされてとある秘密の研究所にたどり着く。描かれていたのは、花の世話をするモグラの絵。それを本国からの命令書だと勘違いした所員たちは、一生懸命になってモグラロボットを開発する(このあたりの、キャラクターの間抜け具合は星新一の真骨頂)。そんなある日、本国から大臣が視察に来る。命令書を真に受けてモグラロボットの開発にいそしむ研究員たちに腹を立てた大臣は、すぐに研究所を閉鎖。モグラロボットたちはその後、世界中に散らばって花の世話をし続けるというお話。

国語の授業が苦手だったこともあって、じつは「花とひみつ」についてはあまり記憶がない。ただ「星新一」という名前だけは覚えていた。なんだかへんてこな名前だなと思ったからだ。読みふけるようになったのは、中学生になってから。クラスメイトに薦められて読んだ。彼はスポーツ万能で勉強もできるという、まさに典型的な転校生だった。そんな彼が「面白い」というなら間違いはないだろう。そこには、ちょっとした対抗心もあった。スポーツではまるで敵わないけれども(僕は運動音痴だった)、勉強まわりのことでは負けるわけにはいかない。これは読破してやろうという、いかにも中学生らしい動機。それから『午後の恐竜』『ボッコちゃん』『だれかさんの悪夢』と、手当たり次第に読んだ。

星が精力的にショートショートを世に送り出していたのは昭和30年代から40年代にかけて。だから僕たちの世代は、リアルタイムに星の作品を読んでいたというわけではない。『つぎはぎプラネット』の収録作も、そのほとんどが僕の生まれる前に書かれたものである。ということは、もう半世紀も前ということだ。そのことに改めて驚かされる。星の先見性に。例えば1964年の朝日新聞に掲載された「オリンピック二〇六四」という作品。タイトルの通り、未来のオリンピックを描いたものだが、そこには空調管理されたドーム競技場の細かな描写がある。立体テレビも登場するが、それでも〈たまには大勢の人といっしょに、にぎやかに見るのも面白い〉という登場人物のセリフも興味深い。いくらテクノロジーが発達したとしても、やはりスポーツは目の前で観戦したほうがいい。星の作品に通底する、科学と人間の心とのバランス(あるいはアンバランス)というテーマが透けて見える。

星の作品理解には、ノンフィクション作家・最相葉月による評伝『星新一 一〇〇一話をつくった人』、あるいは同じく最相が星の作品を軸にして書いた科学時評『あのころの未来 星新一の預言』(いずれも新潮文庫)が参考になる。星の描いた「あのころの未来」に、僕たちは立っている。いい意味でも悪い意味でも。