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アンドリュー・カウフマン『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』

ある日、銀行に紫色の帽子をかぶった強盗が現れる。強盗といっても、彼の要求はお金ではない。「あなたがたにはそれぞれひとつ、なにかを差し出していただきたい。今お持ちのものの中で、もっとも思い入れのあるものを」――こうして居合わせた客たちは、それぞれ“思い入れのある品物”を強盗に差し出す。ある者は、母親からもらっという腕時計を。またある者は、子どもたちの写真を。そうした客たちのひとりに“僕”の妻もいた。彼女が強盗に手渡したのは、電卓。その電卓は彼女が高校生の頃から使っているもので、同級生だった“僕”に微分積分を教えてくれたものでもある。結婚してからも、彼女はその電卓で出産予定日や家のローンの計算をした。ふたりにとって、とても思い出深い品だ。

こうして十三人の客から“思入れのあるもの”を奪い取った強盗は、奇妙な言葉を残して消える。「私は、あなたがたの魂の五十一%を手に、ここを立ち去ってゆきます。そのせいであなたがたの人生には、一風おかしな、不可思議なできごとが起こることになるでしょう。ですがなにより重要なのは――きわめて文字通りに申し上げるとするならば――その五十一%をご自身で回復させねばならぬということ。さもなければ、あなたがたは、命を落とすことにおなりだ。」

強盗の予言通り、解放された十三人は、その後、不可解な事件に襲われる。バスの運転手をしている男は、事件から六時間後、目の前に突然現れた別れた恋人に心臓をもぎ取られてしまう(彼が強盗に差し出したものは、その彼女に手渡すつもりだった婚約指輪で、しかし彼女はそれを受け取ってくれなかった)。ある女性は、からだがキャンディになってしまい、夫に食べ尽くされてしまった。またある女性は、自分の部屋の中でライオンに遭遇する(以来、彼女はずっとライオンに追いかけ回されることとなる)。またある男性は、勤め先のオフィスが急に水で満たされてしまったという。

“僕”の妻にもやはり不思議なことが起こる。彼女の場合は、少しずつ体が縮んでいくという現象。はじめはほんの少しだったけれども、どうやら縮むスピードは速くなっているらしい。縮み方には法則があって、それは「三角数」であるということ。ということは「0, 1, 3, 6, 10, 15, 21, 28,……」という具合に、妻は小さくなっていく。このままでいくと、あと数日で妻は消えてしまう計算になる。

じつは“僕”と妻は、ここ最近、あまりうまくいっていない。小さな子供もいるし、表面的にはうまくいってるようにしているけれども、どこかぎくしゃくとしている。銀行強盗にあったのは、そんな頃合いで、つまり強盗が持ち去った“魂の五十一%”とは、「夫婦の絆」ということになる。そう考えると、他の客たちに訪れた不思議も、さまざまな教訓に満ちた寓話であったことがわかる。十三人の客ひとりひとりのエピソードはとても短いので(本編も130ページ足らずだ)、さらっと読み通してしまうけれども、注意深く読むと、この物語には深い教訓が隠されている。コメディタッチのショートムービーを観ているかのような印象を受けるが、それもそのはずで作者はカナダ在住の脚本家らしい。原題は“The Tiny Wife”といって、そのままではちょっと面白みに欠ける。うまい日本語に変えたのは訳者の手柄だろう。