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綾辻行人『AnotherエピソードS』

綾辻行人のホラー作品はあまり好みでないのだけど、前作『Another』は面白かった。この「エピソードS」は、その前作の事件の最中に起きたもう一つの事件。外伝と思いきや、続編といって差し支えない。このシリーズの特徴は、スプラッタのような幻想譚のような語り口でありながらも、ミステリの結構をきちんと保っている点にある。中学生たちが、なんだかよくわからない不条理に巻き込まれるという話で、スティーブン・キングの作風に近いか。それに加えて、きちんとミステリのカタルシスも融合されていて、そこに至るまでの伏線の張り巡らし方は、さすがに綾辻行人。「なんだかよくわからない」ものに対する合理的な説明がなされていないので、その点に不満を抱くミステリファンはいるかもしれないけれど、個人的には気にならなかった。それよりも、こうした漫画的な(ちょっとデスノートっぽい)設定を、よくぞ小説に取り入れたものだなと感心してしまう。

ストーリーを書いてしまうと面白くないのだが、前作の説明を少し。あえて言えば萩尾望都の『11人いる!』に近いか。クラスの中に死者が紛れ込んでいる。だが、その死者自身も自分が死者であることを自覚していない。だが、死者がまぎれこんだその年には、必ずクラスの関係者に複数の死人が出る。そういう「呪い」を、26年前から抱えている学校に転校してきた男の子が主人公で、事情を知らない彼は、クラスメイトたちの不可思議な行動に右往左往させられる。そのとき出会ったのが、見崎鳴という少女。だが、主人公にははっきりと見える彼女の姿が、クラスメイトには見えないらしい。はたして彼女は実在するのか、それともあちら側の人間なのか……。

これは評価の分かれるところかもしれないが、ヒロインの見崎鳴の造形が、物語全体のトーンをうまく醸し出している。終始、左目に眼帯をしているという設定や、自宅が球体関節人形の工房だったり、台詞回しがいちいちクールだったり。どう見ても綾波レイのパクリだろうと思うわけだけれど、彼女の謎と、主人公たちが体験する恐怖とがうまく絡みあっていた。さらには、ちょっと恋愛要素なんかも入っているわけで、ますますエヴァチックだったりする。

前作ではその鳴が夏休みに家族で別荘に行ったという記述があり、その「空白の一週間」に起きた出来事をつづったのがこの「エピソードS」。彼女はそこで自分たちの先輩であり、彼女の通う中学に伝わる「八十七年の惨事」の体験者に出会う。 「八十七年の惨事」とは、11年前に起きた修学旅行でのバス事故のことである。これもまた彼女たちの中学の「呪い」のひとつとされるものだが、その体験者は辛くも命拾いをしていた。鳴とその体験者とは、数年来の親交がある。彼が「八十七年の惨事」の被害者だと知った鳴は、その年の夏(前作の年)、事件の詳細を訊くために別荘に赴く。そこで鳴は彼と対面するわけだが、その彼はすでにこの世のものではなかった。

つまりこの物語は「幽霊の視点」という、実際にはあり得ない語り手によって語られる。だが死者は自分がなぜ死んだのかがわからない。殺害されたのかもしれず、自殺なのかもしれない。そこでせめて自分の亡骸だけでも見つけようともがく。「死者」「不可怪事件」「探偵」「死体探し」といったホラーの要素は十分。けれども、前作同様、伏線の張り方も見事で、ミステリとしてのどんでん返しも決まっている。「幽霊」が語る、という突拍子もない設定に眉をしかめるミステリファンもいるかもしれないが、最後まで読むと、これは間違いなくミステリだと、綾辻の手腕に改めて感服することだろう。