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謎の独立国家ソマリランド

高野秀行が面白い。4冊読んだがどれも面白かった。「アジア未知動物紀行」「間違う力」「未来国家ブータン」とここまではタイトルからして際物である。そして今回読んだのが「謎の独立国家ソマリランド」。堂々の500p超え、本気度が違う。第35回(2013年)講談社ノンフィクション賞受賞作である。
刊行は今年だが内容的には2009年から始まる。海賊国家として有名になったソマリアは中央政府が機能しない状態であった。アフリカではめずらしくもないがユニークなのはソマリランドという独立を宣言し分離した国があり22年間も機能していながら国際的に承認されていないという。これは国境線の変更を嫌う関係国の思惑によるらしい。
そのソマリランドを著者が訪れたのが09年。アフリカというと独裁制が目立つのだがここはちゃんと選挙で政権交代が行われ経済的にも安定している。だがソマリアの他の地域もどうなっているか確認したい。そこで11年に訪れたのがプントランド、海賊で有名なのがここなのだが一応政府もある。しかしソマリランドと異なりあくまでソマリアの一部つまり中央政府がないから政府を樹立したが将来的にはソマリアという国家の復活を目指しているそうだ。そしてソマリア、暫定政府はあるが内戦状態の国である。内戦の相手はアル・シャバーブ、イスラム原理主義勢力だ。
こうしてソマリア各地を見て回った著者が辿り着いた結論がソマリアは氏族によるまるで日本の武士たちの群雄割拠状態だということだった。どいうことかというとソマリランドが奥州藤原氏、プントランドが平氏、残りの南部ソマリアが源氏となるそうだ。戦乱の世という意味だけではない。氏族間の争いは民族紛争とは異なる。例えば争いを終結させる方法として各氏族から同じ数の女性を嫁入りさせるという。これって日本の戦国時代を思わせる。嫁入りとは違うが大名家の家族を人質に差し出したり養子に出したりしていたではないか。
さてソマリランドで民主制が維持できている理由も氏族制にあった。氏族の長老たちによる参議院とでも呼べそうな仕組みがあり政治家たちの独断専行を抑えている。つまり独裁はしばしば選挙の結果、政権を得た者達によるのだが伝統勢力である長老たちは長年の氏族間の争いの調停の知恵を維持していてそれが機能しているのだった。
ここで経済の話に移ろう。ソマリランドの経済は仕送りによるという。つまり海外に移り住んだ同族からのそれによる。対してプントランドは海賊が産業となっている。最後に南部ソマリアは駐留している国際機関やNPOの援助による。結局、無政府状態でありながらソマリアでは経済は維持できている。携帯電話は誰でも持っていてインターネットも使える。民間のテレビの放送局もある。面白いのがこの放送局で本社はソマリランドにあってプントランドと南部ソマリアに支局がありそれぞれ独自の運営をしている。政府の必要はあまりなさそうだ。しかしそれぞれの地域が依存している産業?を考えれば、やはり政治が機能しないと自立した経済運営は無理だ。著者はいう。ソマリアは群雄割拠だが同じ国である。ソマリランドの知恵を他の地域も学べば内乱状態は終結できる。そして機能不全に陥っている先進国にもソマリランドに学ぶべきものがあるのだった。