井塚章文の本棚

戯作・誕生殺人事件 井塚章文の本棚

戯作・誕生殺人事件

いい意味でも悪い意味でも超ベテランにしか書けない作品。とは言え文章だけ見れば一見若い。勿論、この文章を老練なそれと表現することも可能。矛盾だらけの作品と合っている。ここでも前言を補足すると別に推理小説として矛盾があってダメな作品という意味ではない。そうではなくお約束的な部分とそうきたかという挑戦的な…
消滅した国々 井塚章文の本棚

消滅した国々

驚くべき本である。711pというぶ厚い本に紹介されているのは183ヵ国、戦後という限定でこれだけの国?が誕生し消滅したという。勿論、中には国というにはあまりにお粗末な国も多い。しかし国際政治のいい加減さに比較したら皆、それなりに理由があっての建国といっていい。なぜアフリカの混迷が続いているのか。カリ…
もうひとつの街 井塚章文の本棚

もうひとつの街

まるで宮﨑駿作品のような小説。街の中に別の世界が同時にあり行き来できる。同じような設定でも「都市と都市」はどちらもリアルな存在で住民は互いの存在を無視しながら生活しているという東と西のベルリンが市松模様のようになっている都市の話だったがプラハが舞台のこちらは次元が違うというか「もうひとつ」の世界は最…
夜の国のクーパー 井塚章文の本棚

夜の国のクーパー

伊坂幸太郎は不思議な作家だと思っていた。何がいいのかよくわからないのだが妙に魅力的なのだ。その謎がやっとわかった気がする。「あとがき」を読んで驚いた。大江健三郎のファンだったようだ。そういえば文体が・・・。不可能と思われる設定をしながら説得力がある。力技だ。大江作品の妙に違和感があるのに面白い、あの…
謎の独立国家ソマリランド 井塚章文の本棚

謎の独立国家ソマリランド

高野秀行が面白い。4冊読んだがどれも面白かった。「アジア未知動物紀行」「間違う力」「未来国家ブータン」とここまではタイトルからして際物である。そして今回読んだのが「謎の独立国家ソマリランド」。堂々の500p超え、本気度が違う。第35回(2013年)講談社ノンフィクション賞受賞作である。 刊行は今年だ…
未来国家ブータン 井塚章文の本棚

未来国家ブータン

高野秀行の「アジア未知動物紀行」の感想を「紀行文学の傑作だといっていい」と書いた。本書はさらにいい。ないしろ「ブータン政府公認プロジェクトで雪男探し」なのだ。「伝統的知識」と呼ばれる例えば伝承された薬草に新薬開発の成分となる可能性があったりすることの調査が建前なのだがブータン奥地に雪男を探すのが本当…
血盟団事件 井塚章文の本棚

血盟団事件

「血盟団事件」という言葉は知っていても詳細は知らなかった。とはいえ驚くような事実が書かれているわけではない。テロである。軍部によるそれでも個人によるそれでもない。民間団体によるテロ事件である。日蓮主義者といわれてきたが実際はもっと素朴なものだった。強いていえば弱者によるユートピア願望(世界と個人の一…
流星ひとつ 井塚章文の本棚

流星ひとつ

藤圭子のアルバムを聞きながら書いている。本書は沢木耕太郎が藤圭子に「インタヴュー」(というタイトルで出版するつもりでいた)した、すべて会話という作品。これが凄い。こんなこと答えていいのかというほどの内容。沢木耕太郎は初期の作品ぐらいしか読んでいなかったが「一瞬の夏」を思い出してしまったが実はこの2作…
ヨハネスブルグの天使たち 井塚章文の本棚

ヨハネスブルグの天使たち

読み終えて思ったのはJ・G・バラードと似ているだった。落下を続ける日本製のホビーロボット・DX9が登場する連作集。話は別々だが雰囲気は共通している。国家・民族・宗教・戦争・言語の意味を問い直すという今の時代とこの雰囲気が合っている。しかし直木賞候補作ということだがこの表現しようのない雰囲気で直木賞は…
日本を捨てた男たち 井塚章文の本棚

日本を捨てた男たち

第9回(2011年)開高健ノンフィクション賞受賞作。フィリピーナのために移住した男たちは貧困生活をおくっていた。しかし大使館は援助しない。彼らを援助しているのはフィリピンの貧しい人たちだった。著者はそれをクリスチャンの隣人愛によるものとしている。私は貧しいほど助けあいの気持ちが生まれるせいだと思うが…
平成猿蟹合戦図 井塚章文の本棚

平成猿蟹合戦図

「悪人」に続いての吉田修一作品。読み始めときは「悪人」と同じような作品かと思ったらだいぶ違っていた。ハードボイルドとユーモア小説という全く違うイメージのジャンルに属する作品だったようだ。しかし人物描写が丁寧な割にストーリーはかなり無理がある。これでストーリーも緻密なものになっていたら丸谷才一作品に匹…
テレビは原発事故をどう伝えたのか 井塚章文の本棚

テレビは原発事故をどう伝えたのか

原発事故報道の検証のための本なのだが既に3年近くが経過した今でも、読むとあの日のことがまざまざと思い出される。まるで再体験しているようだ。原発事故そのものによる死者は作業員や高齢者、自殺者を合わせても9.11より、はるかに少ない。しかし国民が味わった恐怖は勝るとも劣らない。東京電力が存続している、原…
炭素文明論 井塚章文の本棚

炭素文明論

タイトルはよくある未来は明るいという怪しげな本のようだが内容は有機化合物が世界史上、重要な役割を果たしてきたというもの。「銃・病原菌・鉄」を連想した 。面白かった。しかし化学式というのはさっぱりわからない。なぜ原子の数が異なると別の分子となり別の性格になってしまうのかからして文化系の人間にはなかなか…
世界が認めたニッポンの居眠り 井塚章文の本棚

世界が認めたニッポンの居眠り

タイトルと内容が合わない。日本人の特殊性(大人がマンガを読むとか)についての本を外国人が持ち上げた本だと思って読むと大間違い。世界の睡眠文化史とでも云おうか。それもかなり自然科学(この場合は医学)的な書き方で著者がオーストリア人つまりドイツ語圏の人だとこういう書き方になってしまうのかと驚いた。フラン…
東京プリズン 井塚章文の本棚

東京プリズン

またお気に入りの女流作家が増えた。篠田節子、津島佑子に続いて。皆、一人の人間と世界を同時に描ける才能がある。男性作家だと世界か個人かどちらかしか描けていない気がする。高校生がアメリカ留学で味わった違和感の話なのだがそれが戦後史に無理なく繋がっている。天皇に戦争責任はあるかないかを巡るディベートという…